企業幹部の会計学
常識打ち破る大変化へ
会計に関する新聞記事や雑誌などで国際会計基準(International Financial Reporting Standards、略してIFRS、アイファース)が、話題を集めています。
それは、アイファースがこれまでの常識を打ち破ってしまうくらいの変化を、企業の決算書の中に起こそうとしているからです。簡単にいうと、これまで経理を知っている人なら当然なものであった貸借対照表や損益計算書が、アイファースの導入によって、無くなってしまうぐらいの大きな変化が起ころうとしているのです。
【10年から選択可能に】
アイファースは、正式には「国際財務報告基準」と呼ばれますが、マスコミなどでは「国際会計基準」といわれることが多いようです。
今まで日本の会計基準は日本の中で作られていましたが、アイファースは国際会計基準審議会という国際舞台で作られている会計基準です。
金融庁は、このアイファースを、2010年3月期からEUやアメリカでも上場しているグローバル企業を対象に選択できることとし、2015年か2016年には上場企業おおよそ4,000社に対して全面的に適用していく方針を示しました。
【EUでは05年移行】
EUではすでに2005年から、中国は2007年から、インド、韓国、カナダも2011年にはアイファースに移行することになっており、今、世界中で会計基準をアイファースに統一しようとする動きが進んでいます。世界の主要国の中で、アイファースの導入に消極的であったアメリカが導入を決めたことで、日本も今回アイファースの採用に大きく舵をきることになったのです。
日本では、これまでも会計基準をアイファースに近付けていくこと(コンバージェンス)を行ってきましたが、今回の金融庁の方針は、日本基準を捨てて、アイファースをそのまま受け入れること(アドプション)を決定したものといえます。
【生まれ変わるBS、PL】
さきほど、貸借対照表や損益計算書が無くなると説明しましたが、正確には貸借対照表は財政状態計算書に、損益計算書は包括利益計算書に生まれ変わります。名前が変わるだけではありません。中身が大きく変わるため、おそらく多くの人が戸惑ってしまうことでしょう。
ここでは、大きく変わる例を3つ紹介しましょう。
(例1) 貸借対照表は資産の部を流動資産、固定資産と区分していましたが、財政状態計算書になると事業、財務、廃止事業、法人所得税、所有者持ち分に区分されることになります。
(例2) 損益計算書の経常利益はなくなり、包括利益計算書では新しく包括利益(期首と期末の純資産の増減差額)という概念が登場します。
(例3) これまで製品を出荷した段階で売上げを計上していたのが、得意先が検収した段階でしか売上が計上できなくなる可能性があります。
週刊ダイヤモンド10月30日号の調査によると、トヨタ自動車では、日本基準からアイファース基準への変更により、最終利益の金額が8,908億円も減少するなど、大きな影響が予想されています。
【まず上場企業から】
当初アイファースの適用となるのは、上場企業の連結決算書のみですので、中小企業については今後とも日本基準の決算書を作っていけばよいこととなっていますが、徐々に日本の会計基準も変わっていって、やがて中小企業でも採用しなくてはならないものになると思われます。
北國TODAY 2010年新春号 Vol.57に載りました