企業幹部の会計学
決算書での開示も検討
知的財産というと、何か近年の新しい考え方のように思われますが、その歴史はかなりの昔までさかのぼります。
【紀元前からの歴史】
紀元前2,000〜1,200年頃の古代帝国であるヒッタイトは、青銅器の時代に初めて鉄を使い始めた国で知られています。この鉄の製法は他国には秘密とされ、鉄の製法を知る唯一の国であるヒッタイトは、製造した鉄を金以上の価値で交換し、莫大な利益を獲得していたといわれています。
また、古代中国も、その当時に磁器や絹を製造することができる唯一の国であり、その製法が長い間秘密とされていたことから、他国との貿易において磁器や絹はきわめて高価で取引され、中国に大きな富をもたらしたといわれています。
【基本法で幅広い概念に】
日本では、小泉内閣のもとで「知的財産立国」をめざし、2002年に知的財産基本法が制定されました。
その中で、知的財産とは「発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの、商標、商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報」をいうと定義されています。
知的財産というと、つい特許権、商標権、著作権など法律上の権利となっているものを思い浮かべてしまいますが、このように知的財産はより幅広い概念として捉えられています。
先日、北国総研ビジネス情報懇話会の例会で、「金沢・老舗の底力」と題して講演がありました。
このなかでは、創業200年を超える金沢の企業の社長や女将たちが、伝統を守りつつも顧客のニーズに合わせて商品開発を行ってきた創意工夫や、付加価値を生み出すノウハウ、不況下でも生き抜いてきた秘訣が紹介されていましたが、こうした老舗がもつ知恵なども知的財産に含まれるといえるのではないでしょうか。
【企業競争をも左右】
特に近年では、企業の経済活動において知的財産の重要性が増し、これが企業の競争力をも左右するようになっています。
確かに、企業が特許権などを外部から有償で取得した場合や、他社を買収した際などに生じる「のれん」は、会計上、資産として計上することができます(無形固定資産として貸借対照表に計上されます)。
その一方で、企業が自社内で長年の時間をかけて作りだしたブランドや、製造ノウハウなどの知的財産については、会計基準が整備されていないことから、企業の経済実態を写すはずの決算書の中に、その価値が反映されないでいます。
これは、目に見えない、形のない知的財産というものを、誰もが納得できるよう客観的に金額で表すことが大変難しく、評価方法も確立されていないからです。
【経産省が開示指針】
2004年に経済産業省が作成した「知的財産情報開示指針」に基づいて、報告書を提出した企業が20社程ありますが、任意開示であり、決算書とは別の報告書としての開示にとどまっています。
しかし、こうした知的財産が企業の中で重要な位置づけを占めるようになってきていることから、会計上も知的財産に関する情報開示が行われ、本当の企業価値が反映できるように、企業会計基準委員会(ASBJ)などでの検討が行われています。
北國TODAY 2009年秋号 Vol.56に載りました