企業幹部の会計学
在庫増大の恐怖
資金繰り圧迫の要因に
自動車の販売不振が深刻化しています。アメリカのサブプライムローン問題に端を発した世界金融危機は、個人消費の低迷につながり、自動車産業では、欧米諸国だけでなく、中国やインドなど新興国にも広がる販売不振となって世界全体に影響が拡大しています。
アメリカの調査会社が公表したデータによると、アメリカでは今年2月の新車販売台数が前年同月比41.4%と大きく落ち込みを示しています。1981年以来、約27年ぶりの低水準だそうです。
また日本でも、今年2月はトヨタ自動車が前年同月比39.8%減、ホンダは38.0%減、日産自動車も37.1%減と大幅減となっています。
こうした販売不振に伴い、各社での在庫の急増が進んでいます。特にトヨタ、ホンダ、日産の3社のアメリカでの在庫日数は、昨年11月段階で100日分超となっており、適正水準といわれている50日〜60日分を大幅に上回る事態となっています。
【歴史的な生産調整】
こうした在庫の増大や、販売回復の兆しが見えない経済状況の中で、自動車各社は生産調整による在庫量の圧縮を進めています。
特に今年1月の国内生産は、歴史的な減少率となりました。減少率が最も大きかったのはマツダで、66.2%減となり、また、トヨタ、日産、三菱も前年同月比4割以上の減少となりました。
海外生産もマツダ52.2%減、日産51.2%減など各社で過去最大の下落率を記録しました。
【形を変えたお金】
では、なぜ各社は在庫の圧縮に努めているのでしょうか。
在庫が増大したとしても、会計上は費用(売上原価)として認識されませんので、決算書ではその影響がすぐに業績として反映されるわけではありません。
しかし、在庫の増大は、在庫品生産のための材料費や労務費などの手元資金の流出を意味しています。また、在庫を保管するための維持管理費用として資金の支払いが生まれます。
さらに、これらの手元資金を借入金に頼っている場合には、金利という追加の資金流出まで発生します。
経営管理に当たっては、「在庫は形を変えたお金」であるという意識を持つことが重要です。在庫品の必要以上の増大は資金繰りを圧迫する危険要因となっていると考えておくべきでしょう。
【評価損の発生】
もしも在庫量を圧縮せず、長期で保有し続けなければならないような場合には、在庫に対する保管費用や金利費用が生じるばかりでなく、保有する在庫そのものも次第に陳腐化していき、まして新製品が登場した場合には旧モデルとなって売れない在庫になっていってしまいます。
また、こうした売れなくなってしまった在庫品には、会計上、評価損を計上しなければならないルールが定められており、会社業績を悪化させる大きな要因にもつながるものとなります。
こうした事情で各社は在庫の圧縮を急いでおり、上記のように国内や海外での生産を減少させているのです。これによって、トヨタは4月までに在庫量の調整を完了させる見込みとなっており、また日産、三菱自動車も大幅な生産調整を終え、国内生産の減産幅の緩和を順次進めていく方針が明らかにされています。
北國TODAY 2009年春号 Vol.54に載りました