企業幹部の会計学
在庫の評価方法が大きく変更に
在庫とは、会社や商店などが加工や販売をするために保有している原材料、仕掛品、製品や商品などのことをいいます。また、製造過程から生まれる副産物や消耗品で未使用のものも在庫に含まれます。
企業会計では、こうした在庫は「棚卸資産」と呼ばれ、会計年度末(期末)に保有されている場合には、貸借対照表の資産勘定に計上されます。
【これまでの方法】
これまでの会計基準では、在庫の期末貸借対照表の金額評価は、「原価法」または「低価法」で行うこととされていました。
「原価法」は、商品の場合には購入したときの金額で、製品や仕掛品の場合には製造にかかった金額(原材料費や労務費、経費などを集計した金額)で評価する方法をいいます。
また、「低価法」は、原価と時価のいずれか低いほうの金額で評価する方法をいいます。低価法を採用している場合には、原価と時価の差額が「低価法評価損」として損益計算書に計上されます。
会計基準上では「原価法」または「低価法」の選択適用が認められていましたが、実務上は、ほとんどすべての中小企業で、在庫の期末金額評価は「原価法」が採られていました。
しかし、「原価法」が採られているため、販売できずに売れ残った商品や、製造を始めたが完成までせず途中で放置された半製品などの在庫でも、原価のまま評価し続けることとされてきたのです。
つまり、現実には売れなくて価値がなくなっている在庫にも、会計上では価値が認められるかたちになっており、貸借対照表の在庫金額が適切ではないままになるという問題点があったといえます。
特に、売れ残りの在庫品は、こうした会計上の問題だけではなく、倉庫スペースを圧迫し、他製品の保管にまでも悪影響を及ぼすなどの倉庫管理上の問題点となる部分であり、実際上の観点からも、早期の処分などの対応が必要とされる部分であると思われます。
【新しい会計基準】
このため、平成20年5月1日付で公表された「中小企業の会計指針」では、在庫の期末における時価が原価より下落し、かつ、金額的重要性がある場合には、時価をもって貸借対照表の金額としなければならないこととされました。
すなわち、これまでの「原価法」と「低価法」の選択適用ではなく、金額的重要性がある場合に限ってですが、「低価法」の適用しか認められなくなった点に大きな変化があったといえます。
また、次のような事実が生じた場合には、その事実を反映させて在庫の帳簿金額を切り下げなければならないことになりました。
@ 棚卸資産について、災害により著しく損傷したとき
A 著しく陳腐化したとき
この点には、特に気をつけておく必要があります。
【トレーディング目的の場合は】
さらに、新会計基準では、「トレーディング目的で保有する」という場合の在庫という考え方が新しく生まれました。
トレーディング目的で保有する在庫とは、例えば、金、銀、白金などのようなものです。
つまり、会社が商品先物取引などの投機目的で保有し、短期的な売買で利益を得るためのものをいいます。
あまり該当する会社は多くないかもしれませんが、上場企業だけでなく中小企業の場合でも、こうしたトレーディング目的で保有するものは、期末の貸借対照表の金額を「時価法」により評価することが定められましたので、注意が必要です。
北國TODAY 2008年夏号 Vol.51に載りました