企業幹部の会計学
棚卸資産
棚卸資産の評価について新会計基準が公表された
【棚卸資産の評価に関する会計基準】
平成18年7月5日、企業会計基準委員会は、「棚卸資産の評価に関する会計基準」を公表しました。
これまでは、棚卸資産については、取得原価をもって貸借対照表価額とする方法(原価法)と、時価が取得原価よりも下落した場合には時価をもって貸借対照表価額とする方法(低価法)とを選択して適用できるものとされてきました。
しかし、この新会計基準では、棚卸資産を通常の販売目的で保有する棚卸資産とトレーディング目的で保有する棚卸資産とに区分し、それぞれ下記のように会計処理することが求められています。
【通常の販売目的で保有する棚卸資産】
通常の販売目的で保有する棚卸資産は、取得原価をもって貸借対照表価額とし、期末における正味売却価額が取得原価よりも下落している場合には、棚卸資産の収益性が低下していると考えられることから、正味売却価額をもって貸借対照表価額とします。
この場合の取得原価と正味売却価額との差額は当期の費用(売上原価または製造原価として表示、ただし臨時かつ多額の場合には特別損失として表示)として処理します。
ここで、正味売却価額とは、売価(売却市場での時価)から見積追加製造原価及び見積販売直接経費を控除したものをいいます。
棚卸資産の売却市場において、市場価格が存在する場合にはこの市場価格を売価とすることができますが、棚卸資産については、市場価格が存在することは多くありません。このため、売価は同等の棚卸資産を売却市場で実際に販売可能な価額として見積ることが必要であり、
実務上、期末前後での販売実績に基づく価額を用いたり、
特定の販売先との間の契約で取り決められた一定の価額を用いることが考えられます。また、製造業における原材料のように再調達原価の方が把握しやすい場合には、再調達原価(最終仕入原価を含みます。)によることも可能です。
新会計基準では、正味売却価額が取得原価よりも下落した場合には必ず評価損を計上しなければならず、正味売却価額が下落した場合でも取得原価を貸借対照表価額とすることは認められなくなりました。
このため、法人税法上で棚卸資産の評価方法として原価法を選択している場合には、申告書上での調整が必要になるものと考えられます。
【トレーディング目的で保有する棚卸資産】
トレーディング目的で保有する棚卸資産については、市場価格に基づく価額をもって貸借対照表価額とし、帳簿価額との差額は、当期の損益(原則として純額で売上高に表示)として処理します。
トレーディング目的で保有する棚卸資産とは、当初から加工や販売の努力を行うことなく単に市場価格の変動により利益を得る目的の棚卸資産をいいます。
【適用時期】
新会計基準は、平成20年4月1日以後開始する事業年度から適用されます。
なお、早期適用をすることも可能ですが、一部適用は認められないこと、連結財務諸表における連結子会社にも適用することなどの点に留意する必要があります。
北國TODAY 2006冬号 Vol.45に載りました