企業幹部の会計学
退職給付債務
退職給与引当金の名前でおなじみの従業員の退職時に支払われる退職金の引当は、法人税が退職給与引当金への繰入れの損金算入を認めなくなった事により大きな転期を迎えております。企業の中にはこれを機に退職給与引当金の計上そのものを止めてしまう所も出ていますが、退職以後に従業員が提供した労務の対価として支払われる後払い賃金が労働協約等で定められている以上債務として認識されなくてはなりません。
退職給付債務は今迄では一時金支給額については期末要支給額の何%として捕らえられており又年金支給見込額は年金の拠出金の支払時に費用化する処理が行われていて、企業によりバラバラでした。その結果、退職給付債務の企業間比較も実際には不可能でした。
このような状態が正しい経営情報を示していない事は明らかです。そこで日本でも平成12年4月以降開始事業年度より国際基準と同じ退職給付の会計基準が導入される事になった訳です。(以降改訂日本基準という)
改定日本基準の特徴としては、全ての退職給付制度を統合出来る包括的な会計基準となっています。したがってこれにもとずく社内積立(現行の退職給与引当金制度)か外部積立(企業年金制度)かを問わず、退職給付に関する資産、負債及び費用等を統一的に把握することになります。
従来の会計基準では、前にも述べたように同じ退職給付水準を有している場合であっても、積立方法(社内引当金か外部拠出型の企業年金制度に加入しているか)によって、また退職給与引当金計上基準の相違(法人税法の規定に基づき計上しているか、又独自の基準により計上しているか)によって異なる会計処理が行われていました。
しかし、改訂日本基準では、従業員の退職を事由として支給される退職給付であれば、制度(退職給付の支給方法や積立方法)の如何にかかわらず、包括的に取り扱う事になりました。
特に従来貸借対照表に計上されなかった社外積立制度が反映されるようになった事は大きな変更点といえるでしょう。
改訂日本基準によると将来支払うべき退職給付(一時金及び年金)を一定の割引率により現在価値に割り引いた退職給付債務を基に退職給付引当金を計上することを求めています。
また、年金資産は原則として退職給付債務の控除項目となり、期末時点の公正な評価額を求めて控除する必要があります。
小規模な企業については退職給付債務算定の基礎となる諸数値が不確実であり、また算定の事務負担も大変であることから、改訂日本基準では従業員が300人以下の企業については、簡便法を使用することが認められており、その一つとして従来の期末要支給額の100%を計上する方法も認められているので、中小企業ではこの方法を採用するのが便利だと思われます。
北國TODAY 2003夏季号 Vol.34に載りました